BLACK BIRD - レビュー

ひねくれた世界観のひねくれてない本格派シューティング

初心者も上級者も楽しめる本格シューティング『BLACK BIRD』レビュー
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本作をシューティングゲーム(以下STG)好きに説明するなら、今すぐにダウンロードしてプレイしろとだけ言いたい。それくらいの価値はあるし、あなたは既にこちらのプレビューを読んでいるはずだ。他方、STGを普段プレイしない人にこのレビューが本作に触れるきっかとなればと思っている。さらに『BLACK BIRD』を通して、STGの面白さを伝えることができれば、筆者として何よりの成功だ。

まず問おう。STGの楽しみとはなんだろう。スコア稼ぎである。

え、いきなり何を言い出すのかと思った? いやだって、PUBGの楽しさは当然、「ドン勝」を食うことにあるわけだから、スコアを追求することがSTGの楽しみであってもまったく不思議ではないはずだ。何しろビデオゲームをプレイする最終目的としては、クリアよりハイスコアの方が歴史的に古いわけだから。

とはいえ、基本的にソロで楽しむのがSTG。いくらハイスコアを取ったからといって、競う相手もいなければ単なる自己満足ではないのか? 事実、STGにおけるスコアアタックとは孤独な作業だ。それは山に登ることにも似ている自己目的な行為だ。

自分自身のパターンを構築することこそが楽しみの本質

だが登山がそうであるように、STGのスコアアタックは何もひとつの形があるわけではない。踏破したいルートを研究して、事前に練習を重ね、天候が良い日にアタックする。自分の力量を過信して、無茶な挑戦をしてはいけない。アクシデントにも柔軟に対応しなければならない。誰のものでもない自分が構築したパターンで山頂にたどり着いたとき、あなたは何にも代え難い充足感が得られるだろう。

STGのスコアタックも同様、万人が世界で一番のハイスコアを目指すのではなく、自分自身のパターンを構築することこそが楽しみの本質である。『BLACK BIRD』はそんなパターン構築の楽しさを教えてくれる作品なのだ。

スコアを意識させるシンプルなシステム

中央に2つあるのがアイテムが登場するツボ(?)。

本作は黒い鳥となって街と人(?)を破壊しつくす爽快なSTGだ。ステージ上にある要塞を破壊することが目的で、すべての要塞を破壊するとボス戦となる。セガの名作STG『ファンタジーゾーン』に強く影響を受けており、左右に任意にスクロール可能で、ステージは循環するようにつながっている。スコアアイテムの他、ショットを当てるとボム、スピードアップ、ライフアップと変化するアイテムがステージ中に配置されたツボから出現する。

基本メカニクスはかなりシンプルと言ってよい。操作は移動の他にショットとボムだけという潔い編成。しかしながら、任意スクロールというレベル構成、スコアリングと結びついたレベルアップやボムのシステム、様々な場所に配置された隠し要素によって、本作のゲームプレイは変化に富んだものとなっている。

初見ではわかりづらいものの、自機はスコアアイテムを回収していくことでレベルアップする。レベルアップすると、ショットだけではなく、ボムも強化され、機体も禍々しくなる。むしろレベルアップしないと後半の敵の猛攻を捌けないため、積極的なレベルアップを意識してほしい。それは同時にスコアにもつながるのだ。

コンボカウンターマックスでボム!これが基本の立ち回り。
STGに馴染みのないプレイヤーでもスコアタックの楽しみに知らず知らずにハマっていく

レベルアップに重要な要素はコンボとボムである。敵を連続して倒すことで最大30までのコンボがカウントされ、この状態で敵を倒すとスコアにコンボの倍率が乗算される。さらにコンボカウンター最大時にボムを使うと、ボーナスとして多くのスコアアイテムが発生する。ボムは自機の周りの敵や弾を吸収する強力な攻撃であるので、コンボが最大の状態で多くの敵を巻き込むことができれば、ハイスコアとなり、同時に自機のレベルアップが可能。クリアを目的としたプレイでもこのスタイルは変わらないため、STGに馴染みのないプレイヤーでもスコアタックの楽しみに知らず知らずにハマっていくようにできている。

ゲームモードは最初はノーマルモードしか選べない。こちらはSTGが初めての人でもクリアできる簡単なモードだ。ノーマルモードをクリアするとトゥルーモードが登場し、敵や後述する隠し要素が増え、より爽快かつ歯ごたえのあるゲームプレイが楽しめる。ラスボスにも変化があり、スコアアタック自体はトゥルーモードのほうが圧倒的に楽しいので、できれば挑戦してほしい。

生きているような世界を探索して破壊する

ステージ間のカットシーンは最初のステージスコアで分岐する。

本作に興味を持つ人の多くは、STGファンだけではなく、Onion Gamesのクリエイター木村祥朗氏のファンもいるだろう。木村氏はカルト的な人気のRPG『moon』の開発に関わり、これまたカルト的デベロッパーのラブデリック出身だ。本作にもラブデリックの系譜を感じさせる要素はふんだんに盛り込まれている。ダークでキュートな世界観、意味不明の音声表現、生活感を感じさせるキャラクター描写。

一方、本作にははっきりとしたストーリーは提示されず、オープニングとエンディング以外は、各ステージの幕間に数秒のカットシーンがあるだけだ。これらのカットシーンは最初のステージのスコアによって分岐するが、テキストや音声による情報がないため、解釈はプレイヤーに委ねられている。

トゥルーモードには隠し要素が数多くあり、スコアアタックには重要な要素となる。
上手いプレイをしようとすれば、必然的にステージの隅々を探訪することなる

だが、ステージ中のいたるところに隠されているアイテムやオブジェクトを探すことで、プレイヤーはこの世界の中にどっぷりと浸ることになるだろう。アイテムやオブジェクトは攻略やスコアタックにおいても重要な要素であるため、上手いプレイをしようとすれば、必然的にステージの隅々を探訪することなる。

さらに音楽と同期した敵の出現パターンや、生活感あふれるキャラクターたちの細かいアニメーションは丁寧に作り込まれており、ゲームプレイと独立したものとしても高い完成度を誇っている。ラブデリックらしい生活感あふれる世界を黒い鳥となって荒らし回る。こちらを攻撃してくる敵がいれば、恐れ戸惑い逃げていく敵もいる。プレイヤーは知らず知らずのうちに黒い鳥と共に破壊欲求に飲み込まれていくだろう。

パターン構築とスコアアタックの楽しさ

 
筆者の序盤開幕の基本パターン。
ラスボス以外のボスは攻撃パターンも単純で単なるオマケのようにさえ感じた

ゲームプレイはいかにステージの要所をテンポ良く破壊していくかにかかっている。任意スクロールというメカニクスのため、パターン構築の自由度が非常に高く、「あの要塞を先に破壊するか?あのアイテムを回収するか?」という選択肢が多数ある。地上の敵は基本的に固定で配置され、空中の敵はスポーンするというデザインも秀逸。コンボカウンターを稼ぐ場面とボムでスコアボーナスを狙う場面をプレイヤーが主体的に構築する楽しみがある。

またハイスコアにはステージクリア時間と敵の撃破数も影響する。なるべく速く多くの敵を撃破するとハイスコアになるため、無駄なく効率の良いパターン構築が求められるわけだ。ただクリア時間を短縮するため、ボス戦はかなりあっさりとしたものになりがちだ。どちらかといえば、ステージの道中を楽しむゲームであり、ラスボス以外のボスは攻撃パターンも単純で単なるオマケのようにさえ感じた。

2面ボスとの戦い。デザインはユニークだが攻撃パターンは少ない。

ただステージでのパターン構築の楽しさは本物で、システムさえ理解すればSTG未経験者でもトゥルーモードでのスコアタックの面白さに目覚める可能性がある。上述したとおり、スコアによって一部カットシーンは変化するため、本作の世界観やラブデリックらしい展開を期待する人には良い動機づけにはなるだろう。さらにトゥルーモードではスコアや条件によるエンディングの変化があり、STG経験者には十分な手応えのものだ。

一部、レベルアップのシステムや敵との接触判定(こちらを攻撃してこない敵には接触判定がない)など、初見ではわかりにくい部分がある。こういった説明の薄さはアーケードSTGでは珍しくないが、未経験者にも配慮するなら、説明が望ましい。他方、コンティニューが不可能であることは、ワンコインクリアを目指して欲しいという姿勢として理解できる。事実、個性が強いながらも完全新作かつ極めてSTGらしい骨太な本作は、STGの世界に新たな人を呼び込み、スコアアタックの魔力に誘い込む可能性を大いに期待できるからだ。

長所

  • 唯一無二の世界観
  • 生き生きとしたドット絵とアニメーション
  • レベルアップとスコアのシナジー
  • パターン構築の楽しさ

短所

  • やや説明不足なシステム
  • あっさりしすぎなボス戦

総評

シンプルなシステムながらもパターン構築によるスコアアタックにやみつきになるシューティングゲーム。コンボとボムによるスコアとレベルアップ要素は、任意スクロールのレベルデザインとうまくマッチしている。ボス戦がやや単調である他は、唯一無二のビジュアルと音楽表現も含めて、ただならぬ作り込みがなされている。近年のシューティングゲームの傑作と言える内容で初心者にも経験者にも最適だ。

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BLACK BIRD

2018年10月18日
  • Platform / Topic
  • PC
  • NintendoSwitch

初心者も上級者も楽しめる本格シューティング『BLACK BIRD』レビュー

9
Amazing
ビジュアルやサウンドにはラブデリックの系譜をひくOnion Gamesらしさがあるものの、内容は本格的なシューティングゲームとして仕上がっている。スコアアタックのためのパターン構築の楽しさは、初心者から経験者どちらにも楽しめる素晴らしい作品だ。
BLACK BIRD
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